秘匿されし聖女が、邪に牙を剥ける時〜神殿を追放された聖女は、乙女ゲームの横行を許さない
しかし、何度も儀式のお手伝いに携わって流れはわかっているとはいえ、緊張はするものだ。
足音だけが静まった廊下に響く中、胸の高鳴りは止まらない。
しばらく歩き進めていくと、突き当たりには物々しい大きな扉があった。
私も知っている……儀式の間。聖力持ちの子が16歳の誕生日を迎えると必ず訪れる義務のある場所。
扉の前には、白い法衣に身を包んだ一人の壮年の男性が立っていた。
「……神官長さまっ」
思わず名を呼んでしまうと、穏やかな微笑を向けて頷いてくれる。
親を亡くして神殿に身を寄せてから、親のような存在だった神官長さまが、儀式に向かう私を待っていてくれたのだ。
「ラヴィ、すまなかったね。こっちの都合で追い出したり連れ戻したり。何の説明もしないで、本当にすまなかった」
「いえ、神官長さま。いろいろ事情が……」
「君は昔から物分かりが良いね。そんなラヴィも、もう成人になるだなんて感慨深いものがあるよ。……おめでとう、ラヴィ」
そう言って頭を撫でてくれるその手は、昔と変わらず大きくて温かい。
『おめでとう』
昔から見ていてくれた人のその一言に、胸がじんわりとする。