秘匿されし聖女が、邪に牙を剥ける時〜神殿を追放された聖女は、乙女ゲームの横行を許さない

でも……あぁ、本当に覚えていなかったのかと思うと、ガッカリした気持ちになる。

覚えていたのは、本当に私だけだった……。




《俺の女神を傷つける醜女よ。この正義の刃で切り刻んでくれる……!》




……数ヶ月前、王都でお会いしたことも。

きっと、覚えていない。



すると、そこへもう一度部屋の扉をノックする音がした。

入ってきたのは、壮年の男性だった。決め込んだ燕尾服という服装からして執事さんだ。

執事さんは公子様に用があるようだ。顔を近付けてこそっと耳打ちすると、公子様は「わかった」と頷いている。

「父上、来客との約束の時間なので、私はここで退席させて頂きます」

「約束?ああ、エスチマ商会の会頭か?」

「はい」

そして、綺麗に礼をしたのち、アルフォード公子様は執事と共にこの応接室を出て行った。



「アルにはよ、領地経営任せてんだ。思った以上に使えて、楽させて貰ってるわ」



公爵様はソファーに深く腰掛けて踏ん反り返って笑う。

「……在学中は、剣技の才も見事なものでしたが」

「あー。でも、ランクルーザーが騎士やりたいからって、領地に帰ってこねえんだよ。なんなら家督もアルに譲るってよ。騎士として出世しちまったし。まあ、領主としてはアルの方が向いてそうだ」

「そうですか」
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