秘匿されし聖女が、邪に牙を剥ける時〜神殿を追放された聖女は、乙女ゲームの横行を許さない
言葉を詰まらせている隙に、父はそう言い捨てて、ドカドカと足音を鳴らしながら部屋を出て行ってしまった。
乱暴にドアが閉められ、バン!と音が鳴り響く。
「……」
まるで、嵐のようだった。言いたいことを好きなだけ言って、罵って去っていく。
……領地に連れ戻された当時以来かもしれない。こんな風に、父に罵られたのは。
あの時は、王都から理不尽に連れ戻され、信念を全て否定されたと感じ、自分も負けじと父を罵り返していたような気がする。
思い返すと、あの時の自分は乱心していたと理解できるのだけど。
……だが、今は状況が状況だ。
これから、王都で事の決着が付けられようととしている。
王族に【魅了】を使ったという重大事件だ。
なのに、当事者である自分が領地でゆっくり過ごして結果を待つ?
……そんなこと、出来るわけがない。
それよりも、何よりも重要なのは。ラヴィがその渦中にいるということ、だ。
(ラヴィ……!)
……そんな、領地でごゆるりとおねんねしている場合じゃないだろう!
焦燥に駆られて寝床から足を下ろしては、クローゼットに飛び込む。
連れて行って貰えないのなら、自分で行くしかない。
すぐさま、旅支度を始める。
父の言いつけを思いっきり無視するカタチとなった。