秘匿されし聖女が、邪に牙を剥ける時〜神殿を追放された聖女は、乙女ゲームの横行を許さない
もし、侯爵家が【魅了】を使った王族への加害を企てていたのだとしたら。
しかも、俺への【魅了】を解く瞬間もローズにしっかりと目撃されていて、その黒い企みを阻止したのは、ラヴィということは明らかで。
自分らの邪魔をしたラヴィに報復……という可能性も考えられるのだ。
(急がねば……!)
解呪の現場に居合わせた聖女見習いら全員に毒を盛るという、大胆な手口に出るぐらいだ。
何を仕掛けてきても不思議ではない。
ラヴィの身の危機、ただそれだけが気がかりで、急いで装備品を手に取っては身に付けていく。
最後にひとつ。……だが、躊躇してその手を止めてしまった。
それは、領地に戻ってきてからは触れる機会すらなかった。
学園在籍中に、愛用していた……剣。
最後に使用したのは、苦しくもあの時。地に座り込んだ無抵抗のアゼリアに対し、理不尽に剣を抜いた時だった。
紛れもなく、後悔の象徴である。
……あの時の悔恨が甦る。
何故、自分は怒りに任せて、幼い頃から親交のあるアゼリアに剣を向けたのか。
何故、あんなにも怒りに囚われてしまったのか、わからない。
何故、騎士道に反するあんな事をしてしまったのか。