秘匿されし聖女が、邪に牙を剥ける時〜神殿を追放された聖女は、乙女ゲームの横行を許さない


実の両親にダメ男連発されているとも知らずに、ただ夢中で馬を走らせていた。

真夜中に単騎で出立とは無謀にも思えるが、ここは道路が整備された領都のど真ん中で、夜道でも走りやすい。

荒れた道に差し掛かる頃には、陽が昇り切った後だ。何の問題もないと判断して、ただひたすら馬を走らせる。

そんな中で、頭に浮かぶのは……夢の中で耳にした、彼女のセリフだった。



『ラベンダー畑で、待っていて下さいね』



……こんなこと、言われたことあっただろうか?思い返しても、記憶にない。

夢というものは、自分の潜在意識を映す鏡のようなものだという説もあるが。

生憎……俺は、待っているつもりはない。

待たずに、自ら向かう。君のところへ。

(ラヴィ……)




ーー二ヶ月前、急遽父が預かることになった、俺の前に突然現れた少女。

学園在籍時に剣術指南を受けたタンザナイト伯の妹……言われてみると、髪と瞳の色が一緒だ。

光に透けるとラベンダーを思わせる薄紫が輝く銀髪に、新緑のような深い緑色の瞳。

だが、筋骨隆々な兄とは違って、妹は華奢で小柄。……まだ、少女だ。
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