秘匿されし聖女が、邪に牙を剥ける時〜神殿を追放された聖女は、乙女ゲームの横行を許さない
そして、彼女は『ラヴェンダー』という、一風変わった名前だった。
(ラベンダー?)
ラベンダーという名前の少女。……記憶が蘇る。
《この公爵領のラベンダー畑が名付けの由来だなんて。……それは、とても素敵な話だね?》
《はい!私、幸せです》
薄紫の花畑に映える白い帽子と、素直な感情。
自分の分岐点となった、あの日の記憶。
ーー花卉栽培の盛んな、公爵領ルビネスタ。それにちなんで、領都のレディニアは『花の都』と呼ばれている。
そんな領主ルビネスタ公爵の子息である俺は、『花の都の貴公子』と呼ばれていた。
……花の貴公子?気に入らない。
父に似て態度も体も武骨な兄・ランクルーザーではなく、何故か、『隣国の花』と言われた公爵令嬢の母の可憐な見目をそっくり受け継いだ自分だけがそう呼ばれる。
仮にも自分は男。兄のように、逞しい騎士になりたいのに。
そんな女々しい二つ名など、はっきり言って物凄く嫌だった。