秘匿されし聖女が、邪に牙を剥ける時〜神殿を追放された聖女は、乙女ゲームの横行を許さない

そんな内心とは裏腹に、『花の都の貴公子』という麗しい見目は、さまざまな令嬢を惹きつける。

婚約者選定のために顔を合わせる同じ年頃の令嬢は、揃って自分に甘く媚びた視線を向け、擦り寄ってくる。

仕舞いには、複数の令嬢が集まると『花の貴公子様に相応しいのは私』と、自分の婚約者の座を争っては、ここぞとばかりに醜く揉めるではないか。

……もう、嫌だ。

令嬢らの濃い化粧も、甘ったるい香水の匂いも。

花の甘ったるい匂いも、女々しい『花の都』も。

もう、何もかも気に食わない。

家督を継ぐのは長子の兄なので、自分は次子で良かったと思うばかりだ。



……自領が大っ嫌いだった少年期の自分だったが。

そんな『花の都』を誇りに思える出来事があった。

それは、王都の学園に入学を控えた15歳の時の話。自分が今のラヴィと同じ年頃の時の話だ。



四つ上の兄が、学園を卒業し所属した聖騎士団の上司とその妹を連れて、帰省していた。

その兄妹は、両親の学園時代の同級生の子供たちだったよう。

父と兄が相手をしていて、当時はあまり関わりもしなかったが、敷地内のラベンダー畑を案内するとの事だった。

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