秘匿されし聖女が、邪に牙を剥ける時〜神殿を追放された聖女は、乙女ゲームの横行を許さない

偶然居合わせたことで同行しないかと声を掛けられ、大した目的もなく、親や兄に何となく付き添う。

……その時に、思わぬ素敵な話を耳にしたのだ。

自分の心を突き動かすほどの、エピソード。



父は、また10歳ほどの友人の娘にラベンダー畑を見せる。

『おまえの母さんも、おまえが腹ん中いる時にこの花畑を見て、腹の子の名前を決めたんだ』と、言いながら。

友人夫妻は、妊娠中にこのルビネスタを訪れていて、この果てなく続く広大な敷地のラベンダー畑を眺めて感銘を受けたという。

薄紫のあまりの美しさに、この花から名を取ると宣言したそうだ。

『え?それはほんとうなのですか?公爵さま!』と、少女は驚く。同時にそれはとても嬉しそうに破顔した。

彼女の過度な反応に首を傾げていると、その理由がわかる。

なんでも、友人夫妻は数年前に流行病で同時に亡くなっているようで、幼少であった彼女の中では、両親の思い出や記憶が数えるほどしかないそうだ。

だから、母の話は何でも嬉しいのだと彼女は言う。



『おかあさまの思いが、ここに残ってる気がします』
< 268 / 399 >

この作品をシェア

pagetop