秘匿されし聖女が、邪に牙を剥ける時〜神殿を追放された聖女は、乙女ゲームの横行を許さない
そう言って、目の前に広がるラベンダー畑を見渡す。
誇らしげに遠くの果てまで眺めるその姿は、背筋を伸ばして見据えて前を向いているようで。
ーーなんて、素敵なことだろうと思った。
10年前にこのラベンダー畑を眺めたであろう母がここに残した思いを、時を越えて遺された娘が受け取る。
思いを受け取った娘が、それを誇りに思い、母と同じようにラベンダー畑を眺める。
花畑が紡ぐ、絆。
富や華やかさの象徴でしかないと思って嫌悪していた花に、こんな力があるなんて俺は思いもしなかったのだ。
気付けば、口にしていた。
『この公爵領のラベンダー畑が名付けの由来だなんて。……それは、とても素敵な話だね?』
……嫌悪していたこの『花の都』を、初めて誇りに思えたのだ。
彼女は、更に破顔して元気よく答える。
『はい!私、幸せです』
……その日を境に、俺は『花の都』を嫌悪しなくなった。
二つ名を肯定して受け入れたわけではないけど、花は人の心を豊かにするだけではなく、思いを紡ぐということが出来る、
そう思うと、それも悪くないなと思えるようにもなったのだ。