秘匿されし聖女が、邪に牙を剥ける時〜神殿を追放された聖女は、乙女ゲームの横行を許さない

神殿勤めをしていた私は普段ドレスを着ないが、仮にも伯爵令嬢。

こういう時のために、一枚だけ用意しておいたドレスに初めて袖を通した。大したものではないけど。

そうして、軽く身なりを整えて緊張したまま公爵ファミリーとの晩餐に臨んだのだった。

でも、あまりにも緊張し過ぎていたのか、私が口を開くことはなく、ただ目の前に出てきた御馳走を黙々と食べるだけに終わってしまった。

公爵様と奥様、お兄様が主に喋っていた。

その横に座るアルフォード公子様の方をチラッと見て様子を伺うも、公子様も私と同じく目の前の御馳走をただやっつけているようだ。

……なので、私たちは会話どころか目が合うことすらなかった。



晩餐が終わっても、お兄様と公爵様は今度は晩酌で盛り上がっていたが、公子様は速やかにその席を立って姿を消した。

私も、成人前の娘なのでお酒は御法度ということで、公爵様には丁寧に挨拶をしてから退席した。

これからは、大人同士の時間ですね。



客室に戻って、一人。静寂の空間の中、何故だか、深いため息が出た。

つ、疲れた……。

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