秘匿されし聖女が、邪に牙を剥ける時〜神殿を追放された聖女は、乙女ゲームの横行を許さない
その向こうには……目の前には、突進してくる私に驚愕の表情を見せるローズマリー令嬢の姿が。
「はっ?……こ、来ないで!来ないで!何なのよあんた、気持ち悪い!」
私がてんとう虫を消滅させる姿を見ていたのか、ローズマリー令嬢も流石に不味いと思ったのか、動揺が見られる。
よくわからないが、自分を脅かすものと認識はしたようだ。
その慌てた顔、後退りする体に、私は地を蹴って飛び出し、精一杯手を伸ばす。
【浄化】の聖女に、祝福を。
ーー邪に、牙を剥け。
精霊王様の、声が聞こえたような気がした。
同時に思った。……あぁ、これは精霊王様の思し召しなのか、と。
でも、私は。これが、精霊王様の思し召しだろうが何だろうが、こうして同じ行動を起こすだろう。
思い慕う人の悲しい顔なんて、見たくないから。
私の大切な人と、その幸せーー私自身の幸せをも護りたいから。
(……届け!)
精一杯伸ばした手の指先が、ローズマリー令嬢の左腕を僅かに掠る。
ほんの少しだけ触れただけなのに、その指先はジュウゥゥッ!と大きく音を立てた。
「痛っ!……痛ぁぁぁっ!」