秘匿されし聖女が、邪に牙を剥ける時〜神殿を追放された聖女は、乙女ゲームの横行を許さない
ドキドキとした胸の高鳴りを堪えて、漸く馬車に乗り込んだその時、サルビア様の侍女が走ってやってきた。
「奥様から『日焼けに気を付けて』と」と、言い私に渡したものは、ツバの広い帽子と日傘だった。
……そういえば、前に来た時も、ラベンダー畑に行く時はこうして帽子をお借りしたなぁ。なんて、思い出す。
侍女さんにお礼を言って、その帽子を深く被った。
こうして、私と公子様を乗せて馬車は進む。
だが……何の会話もなく、馬車の中はずっと静寂を保っていて、進む車輪の音だけが響いていた。
沈黙の空間だ。
馬車の中、アルフォード公子様と二人きり。
いったい、何を話せばいいのだろう!
ずっと憧れていた彼を前に、私はめちゃくちゃ緊張してしまい、公子様の美しいお姿が視界に入ると挙動不審になってしまいそうで、手を膝の上に乗せたままずっと俯いていたのだった。
握った手の中、すごく汗ばんでる……。
しかし、ガチガチのままずっと俯いているのも体が辛い。
なので、それとなく窓から外の風景に目をやることにした。
公子様のお姿を目に入れないように。挙動不審になってしまうといけないから。