秘匿されし聖女が、邪に牙を剥ける時〜神殿を追放された聖女は、乙女ゲームの横行を許さない
……ああ、お母様。
お母様がこのラベンダー畑を眺めて笑っている姿を勝手に想像すると、感慨深いものがある。
私が幼少期の頃に逝ってしまった、お母様。姿はもう、薄らぼんやりとしか覚えていない。思い出も……僅かしかなくて。
《ラヴィ、この世で起こることに意味がないものなんて無いわ。全ては精霊王の思し召しなの》
でも……ラベンダー畑を眺めていると、お母様がそう言っているような気がする。小さい頃の記憶の片隅にあったものなのか、私の想像、妄想なのかはわからないが。
(お母様……)
何故だろうか。
身に覚えのない罪で神殿から追い出されて、失意のどん底にいたはずなのに、このラベンダー畑を前にすると、晴れ晴れとした前向きな気分でいるから不思議だ。
それはきっと、お母様が見たと言われる景色を共有しているからだろう。
そして、その景色に向かって、そこに想う人がいるかのようにして問いかける。
お母様、私が神殿から追い出されて何故かルビネスタ公爵領のこのラベンダー畑にいることは、意味があるのでしょうか?
これは、精霊王様の思し召しなのですか?
……なら、仰せの通りにするしかない。