秘匿されし聖女が、邪に牙を剥ける時〜神殿を追放された聖女は、乙女ゲームの横行を許さない


「これでも開花したての時期なんですよ、まだ」



久々のラベンダー畑に見惚れていたら、背後から公子様の優しい声が聞こえた。

「え?これで?十分咲いて……」

「しばらく咲き続けます。満開は一月後となるでしょう。その時にはもっと、もっとこの紫が鮮やかに色濃くなります」

「まあ!それは楽しみです!」

このラベンダー畑のもっと綺麗な景色が見られる。そう思うと、弾んだ声も出た。




「ーー良かった」



お互い同じ方向を向いて、開花したてのラベンダー畑を眺めながら、剪定の時期や加工品のお話を聞かされ、『さすが、花の都の公子様だなぁ』と心の中で思っていた、その時。

突然、公子様がそう呟いて安堵した様子に、驚かされる。



「え?」

「君が、馬車の中でも張り詰めた表情でずっと俯いていたから。……父がどうにか君を元気付けようと、ここに連れて行きたがったのがわかるような気がするよ」

「あ、その……すみません」

何だか申し訳ない気持ちになる。周りに気を遣われるほど、落ち込んだ様子を見せていたなんて。

ずっと俯いていたのは、公子様を目の前にただ緊張していただけなんですが。
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