秘匿されし聖女が、邪に牙を剥ける時〜神殿を追放された聖女は、乙女ゲームの横行を許さない

「時間は戻らない、儚いもの……私も、そう思います」



そう呟く公子様の宝石のような紫の瞳は、ラベンダー畑ではなく、そのもっと遠くを見つめているようだった。

まるで、何かを思い出しているかのよう。瞳も表情もとても儚げだ。



「……私は以前。騎士として、してはならない事をしてしまいました」



胸の奥がドクッと跳ねた。

騎士としてはならない事……恐らく、アルフォード公子様は、あの時のことを言ってるんだと思った。

王都の学園文化祭で、偶然にもお見かけした。あの時の凶行の事を……。



「私にはもう、剣を握る資格はありません……」



彼の話に耳を傾け、思わず拳に力が入った。

見上げたその表情は、無理矢理笑顔を作っているけど、でも瞳は揺れていて。



「あの時は確かにそれが正しいと信じて疑わなかった。自分は正義だと。……今、思えば、何故そんな風に考えていたかもわからない。現在、こんなにも後悔しているというのに」

「公子様……」

「そして、今もわからないのです……自分自身が」



犯した過ちに、悔恨を残しているのだ。
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