秘匿されし聖女が、邪に牙を剥ける時〜神殿を追放された聖女は、乙女ゲームの横行を許さない
(心が、泣いている)
感覚的に、そう思ってしまった。
悔やんでも悔やみきれない感情、過ちを犯した自分に対する不信感。その狭間で苦しんでいる。藻搔いている。
笑顔で隠そうとしても、ひしひしと伝わってきた。この人は、どれだけの後悔と苦悩を抱えていたのか、と。
あの時……丸腰の女性であるアゼリア様に向かって理不尽に剣を抜こうとした。それは、誰から見ても犯してはいけない過ちだ。
……でも、あの時の鬼の表情からは考えられない、今のこの様子。
あの時は、正気ではなかったのだろうかと思えてしまう。
ーーだとしたら何故、何が彼をそうさせたのだろう。
「でも、君の今の言葉で少し前を向けそうな気がするかな」
「私の、言葉ですか?」
意味を問うと、公子様は笑顔で頷く。その美しい顔に、また心臓が跳ねた。
「どれだけ後悔しても時間は戻らない。悔やむのか励むのか、どちらが良いのか。それなら君の言う通り、日々励み小さな徳を少しずつ積んでいく方が、少しでも前に進めそうな気が……する」
自分の思いを話してくれる公子様は、そうしてまた、ラベンダー畑の方を向いた。
そよ風に靡く髪と、整った横顔は……あの時の彼の姿と重なった。
《……それは、とても素敵な話だね?》
そう私に告げて、満足気にラベンダー畑を見据えていた……幼き頃の彼の姿と。