秘匿されし聖女が、邪に牙を剥ける時〜神殿を追放された聖女は、乙女ゲームの横行を許さない
犯人が私であるはずなどない。
夕食の運搬、給仕には一切関わっていないし、もちろんそんな動機などない。
不審な点はただ一つ。その場にいた中で、私のみが毒に侵されなかったこと。ただそれだけだ。
『私はやってません!……開けて!開けて下さい!』
謹慎という名の軟禁が始まった当時は、昼夜構わずドア越しに大声で訴えた。自分の身の潔白を証明するのに必死だったのだ。
しかし、あまりにもやかましかったのか、ドア越しに返答ともいえる誰かの怒号か響く。
『……毒殺の罪人が!黙ってろ!』
『ちがっ、私は』
『この神聖なる神殿内で、殺しを企てようとした不届者め!』
……やはり、私が疑われているのは間違いないのだ。
『罪人』という一言に、改めて現実を思い知らされる。
あまりのショックに、抵抗する気力が失せ、ただただ涙を流すしかなかった。
軟禁されていた数日の間、部屋には複数回、大聖女様と神官長が来て下さった。事件の経緯、私の言い分を聞き取りに来たのだ。
私は、何度も訴えた。私はやっていない。食事の給仕には一切関わっていないし、動機がないことも強くアピールした。
しかし、両者揃って『そうですか』と、私の話を受け取る態度のみで、肯定も否定もない。