さよならのキスと最後の涙
幸せな時間を願えば願うほど、それはあっという間に過ぎ去っていく。そして、神様のイタズラなのか試練なのか、苦しくて辛い時間が訪れる。

幸せな思い出は、砂のお城のように脆く儚く、次々と入り込む新しい思い出にかき消され、消えてしまう時が多い。しかし苦しい思い出は、深い爪痕を残し、人生が終わるその瞬間まで付きまとう。

人生はやっぱり、残酷で意地悪すぎる。

俺が悩んでいる間にも、時間は過ぎていって戻らないのだから……。



三日後、先輩から話しかけられた。

留学すると聞かされて以来、うまく笑える自信がなく先輩を何となく避けていた。音楽室に早く行くことはせず、部活でも話しかけることなく、一緒に帰ることもしなかった。

「天くん」

先輩の口から出た俺の名前。もうすぐ、この声が学校からなくなる。先輩が吹奏楽部からいなくなる。

「天くん、今日は部活サボろう」

先輩が言った言葉が予想外で、俺は思わず「へっ?」とマヌケな声を出してしまった。

それに先輩はクスリと笑った後、俺を真っ直ぐに見つめる。
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