さよならのキスと最後の涙
「どうしてもデートしたいの。私のお願い、聞いてくれない?」

悲しいはずなのに、とても嬉しかった。俺はゆっくりと頷く。

先輩は「ありがとう」と笑った。



放課後、俺と先輩は並んで歩いた。会話は何もない。重苦しい空気だけが、俺と先輩の間に流れている。

俺は黙って先輩の後をついていく。話しかけようとしても、言葉が悲しみや寂しさに飲み込まれて、違う言葉が出てきそうで怖かった。

「ここ!ここで、映画観よう!」

先輩は、デートで前に来たことのあるデパートの前ではしゃぐ。

「……はい」

俺と先輩はデパートの映画館に行き、チケットとジュースを買って、席に座る。

前に来た時は、ずっと観たかった映画で楽しみだった。何より、大好きな先輩が隣にいることでドキドキしていた。

しかし、今は幸せな気持ちなどどこにもない。先輩が遠く離れてしまうことが悲しすぎて、独りだったらきっと泣いていた。

映画は、クラスの女子が観に行きたいと騒いでいたものだ。人気の男性アイドルが主演の映画らしい。

これから公演される映画の予告が始まる。
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