恋するような激しさで
食べ終えた彼が粉のついた指先を気にしたので、ティッシュを一枚渡した。

「ありがとうございます」

と指先を拭う。

「家だったら舐めちゃうんですけどね」

「私も」

まだほんの少しあどけなさを残しているのに、男っぽい手だった。
棋士の手はすんなりとうつくしい。
駒しか持ったことがないというほど繊細に見える。
けれど、真に繊細な音を奏でるはずのその指先は、案外がっしりとしていた。

「みんな遠慮して突っ込んで来ないのに、先輩は直球ですね」

「この前あれだけ恥さらしたから、怖いものないもん」

「恥なんかじゃないでしょう」

ティッシュと包装を丸めて、ブレザーのポケットに突っ込んだ。

「あんなの、ただの恋です」

「恋?」

「“将棋”を“あなた”に置き換えたら『あなたには私じゃ釣り合わない』『もっと会いたいのに会えない』って聞こえましたよ。告白されてる気分でした」

最後は照れたように言うので、すかさずそこは訂正を入れた。

「きみに言ってたわけじゃないから」

それでも一部納得できるところはあって。
そうか。私は将棋が好きなのか、と基本的なところを再確認した。
本当に好きな相手(将棋)と利用価値だけで近づこうとしている相手(大学)との間で揺れる、ふしだらな乙女心に苦笑しながら。


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