恋するような激しさで
第一視聴覚室でさえ毎日使うわけではないので、第二視聴覚室なんて本当に使用されておらず、私は都合のいい勉強部屋としてほぼ毎日利用した。
その成果なのか、ふたりの男を手玉に取ってやろうと腹をくくったせいなのか、成績は伸び、将棋の方は現状をキープ。
おかげでメンタルも安定した。
彼は、週に1~2回ふらっと現れては、指定席にしている教卓裏に寝転んだり、お菓子を食べたり、勉強に励む私に遠慮することなくのんびり過ごしていた。
季節がすすみ、ひだまりができなくなると指定席はヒーターの前に変わったけれど、「寒いっすねー」と身体を丸めながらピアノとは一定の距離を保ち続けていた。
泣いてすがるのも恋なら、頑なに「きらいだ」と言いつつ側を離れないのも恋だと思うのだけど。
「先輩。何してるんですか?」
ひとりで駒を動かしている私の前に、珍しく彼が座った。
「棋譜並べ。こうやって誰かが指した将棋を同じように並べて勉強するの。今はほとんど気分転換だけど」
聞いてきたくせに、へえ、と明らかに聞き流して、ただ私の手ばかり見ていた。
「やりづらいなあ」
「俺、これずっと見ていられるかも」
「迷惑です」
勝ち負けのない棋譜並べは、メンタルにやさしい。
棋士の情熱を感じながら一手一手並べていると、とても充実した気持ちになる。
「先輩。将棋好きですよね」
相変わらず私の手ばかり見ながら、感心したようにも、呆れたようにも聞こえる声で言った。
「ねえ、チーズ味とピアノ、どっちがきらい?」
「……三日悩んでいいですか?」
本気で眉を寄せる彼を見て、私は涙を流して笑った。
自分も周りもヒリヒリする毎日の中で、久しぶりに心から。