イジワル御曹司と契約妻のかりそめ新婚生活

手がなぜか勝手に動く。
離れていく郁人の腕を捕まえて、引き留めてしまった。


「……あ」
「歩実?」


不思議そうに私を見下ろす郁人に、何か言わなければと思うのだが。
やっぱりこういう時にも発揮するのは、会話力不足ゆえの経験不足で。


「……えー……っと」


何を思って引き留めたんだった?
そう、まるで、私を慮って触れるのをやめた、みたいな言い方だったのが気になったから、だ。
もしかして前にも急に弾かれたように手を離されたのって、私が嫌がると思ったから、だったのだろうか。


「触られるのは嫌なんだろう? 契約を破って悪かった」
「……いや、あの」


郁人も女性が苦手だみたいなことを言ってたから、てっきりそれが理由なのだと思っていたけれど。
つまり、もし私が嫌がらなければ、郁人はさっきみたいに手を握ったりしたいってこと?


「無理しなくていい」
「む、無理ではなくて!」

< 104 / 269 >

この作品をシェア

pagetop