イジワル御曹司と契約妻のかりそめ新婚生活
本当に嫌じゃない。
「平気、ほんとに」
それを証明しようと、また微笑んで見せた。
すると、本当になんだかおかしくなってきて、くすっと小さな笑い声まで漏らしてしまう。
「歩実?」
「あはは。なんかいい大人がこんなことでおろおろして、変だなって」
たかが手を握るかどうかだけで、こんなにも時間をかけるほど慎重になるなんて。
だけどそれは、どうやら郁人の優しさなのだ。
「本当だな。まるで中学生だ」
「あはは」
結婚してからというもの、新しいことに気づかされてばかりだ。
自分がこんな風に誰かと一緒に住めるなんて思っても見なかった。
「ありがとう、郁人」
元々、触られると怖くてたまらないとかでもない。ただ、恋愛感情が湧くわけでもないのに無意味に触れられたくもないだけだ。