イジワル御曹司と契約妻のかりそめ新婚生活
だけど、相手が郁人なら……
「……」
ふと、そこまで考えて、突然ぎゅっと強くなった郁人の手に、我に返る。
見ると、郁人の目が今まで見たことが無いくらい、熱っぽく感じた。
「郁人……?」
視線が交わる。
「嫌じゃないか」
確認するように見つめられて、頷いた。
これが多分、ただ手を握るだけのことを聞かれているわけじゃないことは、なんとなく空気で感じてた。なのに頷いてしまったのは、やっぱりまだアルコールが回っていたからなのか。
それとも……湧くはずがないとずっと思っていた感情が、湧いてきているから?
手を握ったままで、郁人の顔がゆっくりと近づく。
微かに唇に吐息を感じたすぐあとで、柔らかいものが触れた。
ちょん、と軽く啄まれただけ。
「……歩実?」
名前を呼ばれて、もう一度『大丈夫』だと頷いた時には、ぽうっと頭の中が熱くて、くらくらと眩暈がした。
こんなことをされても嫌じゃないのは……相手が郁人だから?
それを確かめたくて、もう一度キスをして欲しくて目を閉じた。
すると、今度はさっきよりも長く、しっかりと唇が合わさる。
涙が出そうになるほど胸の奥が熱くなって、私はこれが、恋なのだと自覚した。
私は、夫に初めての恋をした。