イジワル御曹司と契約妻のかりそめ新婚生活
「あ、でもご家族だったら歩実さんが知らないわけないですよね。じゃあ、取引先の人とかですかね」
「うん。そうかな」
そう答えながら、そんなわけはないと思った。取引先の人間が、あんな風に親し気に腕を取ったりするものか。
それだけじゃなく、私は河内さんの言葉にもダメージを受けていた。
私は知らない。
夫婦だけれど、彼の家族を知らないのだ。
紹介するような家族はいないと、それだけしか聞いていない。
胸の中を渦巻く焦燥感に、苦しくなって河内さんの腕を引っ張った。
「行きましょう」
「声かけに行っちゃいますか」
「ダメ。取引先なら仕事の邪魔しちゃうことになるでしょう」
自分の声が、以前のように固く感情のこもらないものになっていることに、気が付いた。
河内さんも気づいたのだろう。
「でも、気になるじゃないですか。私なら黙ってませんけど?」