イジワル御曹司と契約妻のかりそめ新婚生活
いつもどおり頷きかけたその時だった。
彼の香水以外の、華やかな香りがしたような気がして、瞬間俯いてキスから逃げてしまった。
「あ、えっと。コーヒー、淹れる」
動揺しているのに、なんでもないように振舞うというのは、難しい。
さっきと同じセリフを繰り返し、今度こそ彼の前を通過する。手首を掴む手は、簡単に放された。
彼のキスは大好きなのに、もっと触れてほしいと思えるのに、彼が触れるのは私だけではないかもしれない、ということに気がつくとこんなにも苦しいものなのか。
何か、もの言いたげに郁人も後をついてリビングに入ってきたけれど、互いにそれ以上核心に触れることはなかった。