イジワル御曹司と契約妻のかりそめ新婚生活

ただ、聞けない。
だから、わからないなんて言葉に逃げている。

怖くて聞けないのだ、彼は互いの事情に踏み込まないことを望んでいるとわかっているから。
嫌われたくない、疎まれたくないと思うから、正しいと思う選択ができないまま、数日が経過してしまっていた。


「おはよう」


突然声をかけられて、驚いて背もたれから身体を起こす。
いつのまにか、郁人がルームウェアでリビングに入ってきていた。


「あ、おはよう。ごめん、気づかなかった」


何が『ごめん』なんだろう?
悩んでいることになんとなく後ろめたさを感じて、つい口に出してしまった謝罪だ。郁人も不思議そうに首を傾げた。


「コーヒーくらい自分で入れる」


苦笑いをしてそう言うと、キッチンでコーヒーを淹れ始める。
どうやら、郁人が起きてきたのにぼんやりソファに座ったままのことを私が謝ったと解釈したようだ。
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