イジワル御曹司と契約妻のかりそめ新婚生活
「そうみたいね」
ここ二週間ほど、弁当を頼まれる日がなくなった。帰りも相変わらず遅い。
家に居る時間が少ないのは、仕事のせいだ、と以前ならわざわざ自分に言い聞かせることもなく信じ切っていた。今は、いちいち頭の中に浮かんでくる例の彼女と寄り添う姿を掻き消すのに忙しい。
あれから、河内さんがその件に触れてくることはなかったけれど、私からも何も言わないからだろう。
堪えきれなくなったように、その話題を切り出した。
「ねえ、あの女のこと何かわかったんですか?」
「何かって?」
「だから……」
「取引先の人じゃないのかな? だからわざわざ聞いてない」
「そんなわけないって! そんな雰囲気じゃなかったじゃないですか。わかってるはずでしょう? だからあんな泣きそうな顔してたんじゃないんですか?」
のらりくらりと問題点から逃げようとする私は、河内さんからすればやきもきするのだろう。表情がとてもイラついている。