イジワル御曹司と契約妻のかりそめ新婚生活
「あの、お身内の方とのことですが、お名前をお伺いしてもよろしいですか?」
これくらいのことは、会社を訪問してきた人に聞くのは当然のこと……だよね。
だから詮索したことにはならないはず。そう思っても、なぜだか手が震える。
「常盤かすみと申します」
「どういったご関係でしょう?」
どうにか唇に笑みは浮かべられたと思う。
だけど私のそんな不自然な微笑みよりも、ずっとずっと綺麗な笑みを浮かべて彼女、常盤さんは言った。
「婚約者です。大事な話があるのよ」
「……婚……」
婚約者……?
誰の?
当然、会話の流れから考えても郁人の婚約者だと、そういう意味にしか聞こえない。一気に頭が混乱した。
だって、そんなはずはない。彼は既に結婚しているのだ、私と。
戸惑って、何をどう言おうか狼狽えているうちに、ふと彼女の視線が私の胸元にある社員証に向けられる。
それから目を見開いて、再び私の顔を見た。