イジワル御曹司と契約妻のかりそめ新婚生活
「……佐々木歩実さん? もしかして郁人さんが結婚してしまった人?」
私にとっては続けざまの驚きだった。
私と結婚しているはずの郁人さんの、婚約者。そして彼女は、結婚の事実まで知っているらしい。更にはまるで、私たちの結婚、そのこと自体が間違いであると言いたげだ。
何も知らないのは私だけ。
そのことに、言いようのない疎外感と寂しさで胸が痛んだ。
いきなり修羅場に放り込まれたような展開に、喉を塞がれたように数秒声が出なかった。
けれどショックを受けながらも、どうにか平静を取り繕う。
「妻の歩実と申します」
声を絞り出す。背筋を伸ばして一礼をしてから、きゅっとお腹に力を入れて続けた。
「婚約者、とはどういう意味なのでしょうか?」