イジワル御曹司と契約妻のかりそめ新婚生活
手の震えが顕著にひどくなる。けれど、それを悟られたくはなく両手を揃えて握り合わせた。
彼女、常盤さんは相変わらず目を見開いていたけれど、次には余裕を取り戻したのが微笑みを浮かべる。

「そのままの意味よ。私が本来の婚約者なの。……といっても、彼の方は嫌がっていたのだけれど」

ひょいっと肩を竦めて悪戯に笑う彼女は、女の私から見ても美しく魅力的だった。

「……嫌がって?」
「そう。安心した? 愛し合ってたわけじゃないの。私だって彼に嫌がられていることくらい理解してるわ。けどまさか、回避するために他の女性を探してきて先手を打っちゃうとは思いもよらなかったけど」


心臓の鼓動が、痛いほどに早くなっていた。
嫌な感情が胸の奥で渦を巻く。


「回避するため」
「そうよ。あなたも思い当たる節があるんじゃないの?」


私と郁人だって、愛し合った上での結婚ではないのは最初からわかっていたことで、今更衝撃を受けることでもない。だけど、理解してしまった。たとえ愛情はなくとも、結婚してもいいと思える相手に私を選んでくれたのだと思っていた。
違ったんだ。何らかの事情があって、彼はこの人と結婚しなければいけない状態にあった。それから逃れるために、急いで結婚したということだ。
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