イジワル御曹司と契約妻のかりそめ新婚生活
とにかく早く籍を入れたいと言っていた。
結婚式はできない、と言っていた。
紹介できる家族はいないと言っていた。
それらの理由が、全部わかったような気がした。
「郁人さんも、酷いことするわね」
「え?」
「だってそうでしょう。彼の立場からしたら、このままあなたと結婚は続けられないはずよ。わがままは許されないわ。私だって、彼を愛しているわけじゃないけれど、責任のある家に生まれたからには覚悟はしているの。まさか彼が、こんな無責任なことをするとは思わなかった」
眉を顰めた彼女が、憐れむような視線を私に向ける。
ぐにゃぐにゃと、地面が歪む。浮足立って膝に力が入らず、立っているのがやっとの状態だった。