イジワル御曹司と契約妻のかりそめ新婚生活
……この人の前で、弱ったところなんて見られたくない。


ぐらっと身体が傾きそうになるのをどうにか足を踏ん張って耐えた。
愛されて結婚したわけでもない。真っ当な妻でもないのに、そんな意地やプライドのようなものが自分の中にあることに余計に情けなくもなったけれど、今どうにか姿勢を正していられるのはそのおかげだ。

真正面から彼女を見据える。口元に余裕の笑みを浮かべた彼女を見ると、頭に血が上りそうになる。
その表情はどう見ても、私を下に見ていた。

かっとなったら負け。
声を荒げたら負ける。
元より私には、言い返せるだけの話術も情報もないのだから。

それに、今なら彼女から、私が聞いてない郁人のことを聞けるかもしれない。


「……紹介するような家族は居ないと彼から聞いてます」


どうにか声は震えずに済んだだろうか。
郁人のいないところでこんな話を聞き出そうとしていることに、罪悪感がありながらも誘惑に勝てなかった。
郁人に知られたら、嫌がられるのはわかっているのに。
< 160 / 269 >
表紙・目次

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop