イジワル御曹司と契約妻のかりそめ新婚生活
「悪い人じゃないと言いたいんでしょ? 彼がどうという問題じゃないの。そうせざるをえなくなる、それだけのことよ」

目を伏せて、彼女は手元のスマホを見て何かを確認した。
それから、すっと立ち上がる。

「帰るわ。あなたと話が出来たし良しとしましょう」
「え、ま、待ってください」

中途半端に気になる情報だけ聞かされて、咄嗟に引き留めてしまった。

「彼の家って、どういう家なんですか」

結局、そこが聞けてないのに。
だけど彼女は、つんとそっぽを向いた。

「どうして私がわざわざ教えてあげないといけないの? 自分で聞いてみたらいいでしょう。でもそしたらそこで、あなたたちの関係も終わりに向かっていくわねきっと。あなたには話したくないから彼は黙っていたのだろうし」

私の横を通り過ぎながら、そんな言葉を残していく。

どういう意味?
聞いたら、別れ話になってしまうっていうこと?

振り向いて、来客ブースの中から彼女の背中を見送りながら、ぎゅっと重く痛むお腹の奥を、両手で押さえつけた。






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