イジワル御曹司と契約妻のかりそめ新婚生活
「歩実さん。身内って、あの人?」
顔を上げれば、定時になってぱらぱらと退社していく人の中で立ち止まっている河内さんがいた。
「あの人、親戚の人だったってことですか?」
「えー……っと」
咄嗟に誤魔化す言葉が出なかったせいで、察した河内さんの目尻が吊り上がり、険しい表情になる。
「やっぱり佐々木さんの……? 何しに来たんですか嫌がらせ?」
「や、嫌がらせってわけではなさそう。だけど……」
ただ単に郁人に会いに来て、代わりに私が来たってだけだ。
「びしっと言ってやりました? 私が妻だって!」
「ちょ。河内さん、声のトーン抑えて」
ロビーにはまだ人が行き交っている。誰が聞いているかもわからないのに大きな声を出さないで欲しい。