イジワル御曹司と契約妻のかりそめ新婚生活

それからだったと思う。会社で、たまに帰りの電車で、彼女の姿を見ればなんとなく目で追うことが多くなった。
だからだろうか。上司から勧められた見合いの相手が彼女だったときに、俺はなんの迷いもなく頷いた。
好きだとかそんなつもりはなかったけれど、正直面倒だと思うことが多い中で比べれば、間違いなく彼女に抱いているのは『好意』だったように思う。

帰り道、高架下を歩き上を通り過ぎる電車の音を聞きながら、そんなことを思い出していた。
まさか、自分と彼女がこんな風に穏やかな関係を築けるとは思っていなかったけれど。
早く、帰りたい。そんな風に思うようになったのは、間違いなく、彼女がいるからだ。
ふと漂ったソースの焼ける良い匂いに周囲を見渡せば、お好み焼の屋台が見えた。

……そういえば、明日は休みだ。

いつだったか、彼女が言っていたことを思い出し、帰路に着く前に方向転換をした。
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