イジワル御曹司と契約妻のかりそめ新婚生活

閉店間近だった電気屋に立ち寄ってから家に帰ると、リビングでいつものように本を読んでいる歩実がいる。
今日は、なんとなく音を立てないように玄関を閉めたから、まだ俺の帰宅に気が付いてない。

熱心な横顔は、電車の中で良く見たものと同じだ。先ほど思い出していた、見合い以前の彼女の横顔と重ねてつい笑った。
あの頃は、彼女と恋愛小説やファンタジーが結びつかなかったが、今は見慣れた。近頃は恋愛小説ばかり読み漁っているようだ。

彼女の側まで近づいて、手に持っていたビジネスバッグと電気屋で購入してきた平たく四角い段ボール箱を床に置く。
それでようやく、彼女が顔を上げて目が合った。

「ごめん! 全然気づかなかった。いつのまに?」
「今帰ったとこだ」
「それ何?」
「ホットプレート買って来た」

そう言うと、ぽかんとしてこちらを見上げる。

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