イジワル御曹司と契約妻のかりそめ新婚生活
叔父夫婦に、大学だけでなく学部まですべて指定されて断ることはできなかった。途中でなんとなく悟った。血縁だとわかってしまった以上、放置して好き勝手に生きられ家の恥になるよりも目の行き届く範囲に置いておきたかったのだろう。
しまった、と思った。
気が付けば、親戚一同から四方八方を固められたような状態で、就職先のポストまで決められそうな勢いだった。ふたつ下の主昭が入社し重役ポストに着くまでに、主昭のサポート役になるよう教育する算段もあったのかもしれない。
下積みからやらせてくれと頼みこみ、就職先だけはどうにか自分の希望も通してもらったが、それでも関連会社からは出られなかった。
主昭は、甘やかされて育った子供そのものだったが、悪い人間ではなかった。ただ、とにかく、認識が甘い。自分がやがて大企業の跡目を継ぐのだという意識もない。
「俺には無理だって。絶対、郁兄の方が向いてるよ」
へらへら笑ってそう言いながら、結局親には逆らえず俺の二年後に大学を卒業し本社に押し込められた。
同時に婚約者も決められていて、少しばかり可哀想にもなったが、主昭の立場で考えれば致し方ない。本当に嫌なら、自分でどうにかすればいい。
俺のように恩義にがんじがらめになっているわけでもないのだし。
いや、それよりも、だ。叔父夫婦のこれまでのやり方を見ていれば、いずれは自分にも会社にとって有意義な相手との結婚をとか言い出すかもしれない。
実際、それとなく打診があったこともある。