イジワル御曹司と契約妻のかりそめ新婚生活
「どうしたの?」
突然、テーブルに視線を落としながら考え耽った俺に、常盤かすみが不思議そうに首を傾げた。
「なんでもない。それより、君は本当に主昭に対して情がないんだな。長く婚約しているからそれなりの関係は築いているのかと思っていた」
「それなりの情ならあるわよ。だから無理に跡を継がせるのも可哀想かなって思ってしまうのよ。馬鹿らしいと思わない? 今時政略結婚なんて」
彼女が椅子の背もたれに身体を預け、つまらなそうに息を吐く。
「そうはいっても、今の俺や主昭にはそれを否定するだけの力はない」
その言葉に返事はなく常盤かすみとの会話はそこで終わり、すぐに店を出た。
会社なんて血縁関係なく実力のあるものが上に就けばいい。
そういう時代になってきているというのに、古くからの体制を変えられないままの企業はいくつもある。
変えたければ、自分たちが力をつけなければいけないが、そのためには結局企業の中で立場を得なければならない、というジレンマだった。