イジワル御曹司と契約妻のかりそめ新婚生活
ホットプレートも温まった。材料も準備万端で、焼くのは郁人にやってもらった。
大きなへらがなかったので、フライ返しとホットプレートについていた小さなへらで器用に形を整えて、ひっくり返す。

「美味しそう」
「まだだからな」
「チーズが溶けて流れ出てきたよ」
「難しいな。中で溶けてくれてた方がいいんだけど」
「これでも全然美味しそうだよ」

お好み焼の匂いに、チーズが焼ける匂いが混じって食欲をそそる。
焼く段階に入ってからは、私は大人しく焼き上がりを待っているだけだ。郁人が意外にも手際よくやってくれるから、手を出す隙もなかった。

牡蠣入りのと、チーズ入り、山芋を生地に入れたのと、入れてないのと。ふたりで全部はんぶんこして、感想を言い合った。

「やっぱり山芋入れた方がふんわりするね?」
「チーズのはちょっと焦げたな」
「芳ばしいということで。牡蠣が美味しい」
「だろ」

その時ちょっとだけ郁人の表情が得意げなものになって、思わず笑ってしまう。
ほくほくのお好み焼きを食べながら、郁人を見て、幸せだなあとそんな感情が溢れてくる。自然と唇に笑みが浮かぶ。

契約内容の変更、勇気を出して言って良かった。
あれからぐんとふたりの距離は近づいたような気がする。
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