イジワル御曹司と契約妻のかりそめ新婚生活

高校生で両親を亡くして心細くはなかったのだろうか。その時に現われた肉親が自分に冷たくて、本当に平気だったんだろうか。

会ったこともない甥で、子供ならともかく高校生なんて可愛くもなんともないだろう、と平然と郁人は言った。本当に平気だったんだろうか。

優しくしてもらうことを、諦めてしまったんじゃないだろうか。
勝手な憶測だけれど、それなら少しわかる。最初から諦めることで、自分の心を守る感覚。人見知りをこじらせて人付き合いから遠ざかった私と同じだから。

同じと言っても、彼の抱えるものとは、比べるべくもないのだけれど。

様々な疑問を口にすること自体、郁人を傷つけるような気がして、ならば別の言葉を探そうにも見つからない。私は相変わらず、口下手だ。

「歩実?」

黙り込んだ私を不思議に思ったのか、郁人は箸を使う手を止める。
私は複雑な表情をしていたのか、郁人が真剣な目で言った。

「もし本当にそんな状況になっても、心無い言葉には耳を貸さなくていい。俺が全部受け止める。聞き慣れてるからな」

矢面に立つ、と言う意味だろう。そんな言葉をかけてくれることにちょっと驚いて、それから微笑む。

「ありがとう。でも、そうじゃなくて……」

何を言えばいいだろう。
どんな言葉が郁人のためになるんだろう。
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