イジワル御曹司と契約妻のかりそめ新婚生活
一生懸命、言葉を探す。思えば、私は口下手だからといつも諦めて、閉ざすことばかりしてきた。こんな風に、それでも何か、と懸命に探すのはこれまでなかった。
「えっと……」
「ん?」
相変わらず、上手にはいかない。言葉を探して唇が迷う。迷った挙句、少し的外れなことを言った。
「……うれしいよ、私は。苦労かけるって言ってくれたのが」
わからない、と眉根を寄せる彼に、思わず苦笑した。
「色々あるけど、一緒にいてくれるってことだから」
そう言うと、今度は彼が目を見開いて沈黙する。
それからほんのちょっとだけ、頬を染めた。
「……当たり前だ」
「そう?」
「夫婦だからな」
「う、うん」
それからまた、沈黙が降りる。
なんだか無性に気恥ずかしくなって、居心地がいいような悪いような、落ち着かない気分になってしまった。
ちょっとの間があって、郁人がぽつりと言った。
「……歩実のとこのご両親、理想的だな」
「え。そ、そう?」
「一緒に店を切盛りして、常に一緒にいる。理想的だろう」
「いや……本当に四六時中ずっと一緒だから、結構喧嘩もしてるよ?」
「それでも一緒にいる。仲が良いってことだろう」
そうかなあ。
でも、どっちも別れたいとは言ったことないかも。もっとも、子供に聞かせる話じゃないから私は知らないだけかもしれないけど。