イジワル御曹司と契約妻のかりそめ新婚生活
「俺の両親も、まあまあ仲が良くて、ごく普通の夫婦だった。ごく普通の家庭で育ったから、叔父夫婦や眞島の親族に会ったときは、ある意味衝撃だったな」
「……そうなんだ」
さっき、私が聞こうとして聞けなかったことを彼が話しだしてくれた。もしかしたら、私が上手く言葉を探せなかったことに気づいてくれたのかもしれない。
郁人が受けた衝撃を思って泣きそうになってしまった私に、そんな顔をするなと言いたげに彼は私を見て微笑んだ。
「ああいう冷たい家族はごめんだな。帰る気が失せる」
「そ、そうだね。普通の家族がいいよ。できれば子供に構ってやれないほど忙しすぎる両親じゃなくて、もっと普通で」
おどけた彼に合わせて、私もちょっとした冗談を交えたつもりだった。
けど、後から激しく動揺してしまう。私たちの未来に子供がいることを前提のように言ってしまったことに気が付いたからだ。
どうか気づかずに聞き流してくれますように、と郁人を見た。
が、彼は、わかりやすいくらいに固まっている。
さっきから、私たちの会話はどうもおかしい。
お互いが、相手の言葉に狼狽えたり固まったり。口下手同士が自分の心の中を晒すような会話をすると、こういう状況になるらしい。
「いや、えっと、普通の、ってことを言いたかっただけ、で」
汗をかくながら言葉を付け足す私の語尾に被せるように、郁人が言った。
「そうだな。ちゃんと子供を構ってやれる父親になるよう努力する」
今度こそ私は、顔を真っ赤にして俯いてしまった。