イジワル御曹司と契約妻のかりそめ新婚生活
時々息を継ぎながら、長い長いキスをする。
舌を絡ませながら、さすがに苦しくなって藻掻くように宙をさまよった手を、郁人の片手が捕まえた。
もう片方の手に背中を支えられながら、静かにベッドに押し倒されていく。
「んっ……ふ、ぁ……」
「歩実」
キスが逸れて、彼の顔が私の首筋に伏せられた。握り合わせたふたりの片手はシーツの上に落ち着き、郁人のもう片手が私の頭を撫で、額にかかる前髪を指で梳く。
「歩実」
私を求めてくれる声がする。
それが私の心も体も温めて、残念ながら緊張をほぐしてはくれなかった。
結局この日、私たち夫婦の間にそれ以上のことはなく、夜は過ぎる。
私が嫌がったわけではなく、緊張が過ぎて私の身体のガチガチ具合に、郁人がとうとう笑いだしてしまったからだ。
「焦らなくていいんだ、ずっと一緒にいるんだから」
この先は長い。
きっとそれほど日を置かず、私の緊張も和らいでいく。
だからその日はただ服の上から優しく私の体を撫で、ひとつのベッドで何度も何度もキスをした。
とても幸せな夜だった。
少なくとも、この部屋で私の隣にいる彼は、眞島の後継者なんていう存在ではなくて、ただの男の人で、ただの夫だった。ちゃんと手が届く存在だった。