イジワル御曹司と契約妻のかりそめ新婚生活
レストランで食事をした後、郁人に誘われて彼の行きつけのバーに寄った。
「おお、郁人。ここで会うのは久しぶりだな」
カウンターに、初老の男性がいてこちらを見るなり声をかけてくる。
随分親しげな様子なのに、郁人の方は礼儀正しく腰を折る。なんだかちぐはぐな様子のふたりだ。
その男性は苦笑してから、私へと視線を移した。慌てて私も会釈すると、男性に歩み寄って行く郁人の後に続く。
男性の隣のスツールに郁人が座る。どうやら一緒に飲むらしい。
初対面の相手に緊張しながら、私も郁人の隣に座ると、簡単に紹介してくれた。
「動木さんだ。仕事でお世話になってる」
「トドロキさん?」
どこかで聞いたことがあるような、と記憶を遡る。しかし、思い出す前に郁人が教えてくれた。
「前にここに来た時に言ってただろう」
「……あ!」
そうだ、確かバーテンダーさんが、郁人をからかうようにそんな話をしていた。
私が思い出したのを表情で確認すると、今度はくるりと動木さんの方を見て、手のひらで私を指し示して簡潔に言った。
「妻です」
簡潔過ぎる。
素っ気ない郁人の代わりにといってはなんだが、どうにか緊張する表情筋を励まして笑顔を作ると頭を下げた。
「はじめまして、あの……」
「よろしくな、歩実ちゃん」
物凄く砕けた様子に、無言の郁人から一気に不機嫌なオーラが溢れた気がした。多分、気のせいではない。
「おお、郁人。ここで会うのは久しぶりだな」
カウンターに、初老の男性がいてこちらを見るなり声をかけてくる。
随分親しげな様子なのに、郁人の方は礼儀正しく腰を折る。なんだかちぐはぐな様子のふたりだ。
その男性は苦笑してから、私へと視線を移した。慌てて私も会釈すると、男性に歩み寄って行く郁人の後に続く。
男性の隣のスツールに郁人が座る。どうやら一緒に飲むらしい。
初対面の相手に緊張しながら、私も郁人の隣に座ると、簡単に紹介してくれた。
「動木さんだ。仕事でお世話になってる」
「トドロキさん?」
どこかで聞いたことがあるような、と記憶を遡る。しかし、思い出す前に郁人が教えてくれた。
「前にここに来た時に言ってただろう」
「……あ!」
そうだ、確かバーテンダーさんが、郁人をからかうようにそんな話をしていた。
私が思い出したのを表情で確認すると、今度はくるりと動木さんの方を見て、手のひらで私を指し示して簡潔に言った。
「妻です」
簡潔過ぎる。
素っ気ない郁人の代わりにといってはなんだが、どうにか緊張する表情筋を励まして笑顔を作ると頭を下げた。
「はじめまして、あの……」
「よろしくな、歩実ちゃん」
物凄く砕けた様子に、無言の郁人から一気に不機嫌なオーラが溢れた気がした。多分、気のせいではない。