イジワル御曹司と契約妻のかりそめ新婚生活
互いの存在を確かめるように、抱きしめ合ったあと。
ベッドに腰かけて、この一週間大丈夫だったかと聞かれて、あったことをそのまま話した。郁人の方からも、お祖父さんが亡くなった時のことや、その後葬儀でバタついていたことなどを説明してくれた。

「……もうちょっと、連絡欲しかった」

本当に、怖かったのだ。帰って来てくれた安堵もあり、正直に拗ねた口調で言うと彼が困ったように笑う。

「ごめん」

余りにも申し訳なさそうな顔をしたので、私は笑って「冗談」と言った。
それなのに、郁人の表情はまだ硬い。言いづらそうに口を開いた。

「歩実、話がある」

予感はしていた。例えばさっき、返事をくれなかったこと。動木さんが『とりあえずは帰ってくる』と言ったこと。

「また出かけるの?」

困らせるまい、と思っていたのに郁人のシャツを皺になるほど強く握った。
後継者問題が、まだ片付かないのだろう。そう簡単にはいかないだろうなと思っていた。
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