イジワル御曹司と契約妻のかりそめ新婚生活
身体が解かれたのは、空が白み始めた頃だった。

汗ばんだ肌を、彼のキスが滑る。
労わるような優しさに、胸が苦しくなるほどの愛おしさがあふれ出す。
こんな感情は初めてで、ああ、これが『愛してる』ってことなのかなと、夢見心地の頭で考えた。

「……歩実」
「ん……」

郁人の唇が、瞼に落ちて、頬に落ちて、耳に落ちる。
そこで囁かれた言葉に、目を見開いた。

「……してる」

気持ちを疑うわけじゃない。ただ、郁人がそんな言葉を伝えてくれるとは思わなかった。
不意打ちの愛の言葉に、鼻の奥がツンと熱くなりながら私も言葉で返そうとする。

「わ、私も」

けれど、唇をキスで塞がれ邪魔された。

「帰ってから聞く」
「郁人……」

そう言った彼の微笑みは、これまでで一等優しいものだった。
抱きしめられて、その温もりに急速に眠気に襲われる。続いた睡眠不足のせいもあっただろう。

次に目を覚ました時には、彼はもう居なかった。

< 246 / 269 >

この作品をシェア

pagetop