イジワル御曹司と契約妻のかりそめ新婚生活
病室に入り、改めて祖父の顔を見た。
母が駆け落ち同然に家を出て、父と結婚したことをこの祖父はちゃんと知っていた。だから、事故のあとすぐに俺を見つけられたのだ。
無理やり連れ戻そうとはしなかった辺り、やはり実の子には甘くなるのだろうか。そう考えると、祖父と叔父はよく似ている。
会っていない期間が長すぎて、とても家族とは思えなかったが、それはお互い様だろう。それでも、よくしてもらったとは思っている。
叔父に比べれば、まだ少しは俺に向ける視線は柔らかかったように思う。
「……ありがとうございました」
枕元で背筋を正し、一礼する。
涙は出なかった。
祖父の容態が急変し叔父に呼び出された直後から、いきなり秘書を付けられ行動を監視されていた。
どうにか隙間を見つけてしばらく帰れないことを歩実に伝えることはできていたが、祖父が亡くなった後にももう一度連絡を取ろうとしていた。
が、スマホをいつのまにかかすめ取られていた。
「……俺の携帯を知らないか?」
「どこかにお忘れですか? 社用ですがこちらをお使いください」
用意されていたのだろう。真新しいスマホを渡された。
アドレス帳には、必要な番号は登録されてある、と秘書は言った。けれど、歩実の番号は当然のようにそこにはなかった。