イジワル御曹司と契約妻のかりそめ新婚生活
「あら。嬉しい。どういう風の吹きまわし?」
「別に。嫌だったか?」
「そんなわけないでしょう」
そのまま彼女を車に乗せて、予約してあった料亭へ案内する。
常盤かすみは、別に俺のことが好きなわけではない。ただ、いずれは会社の為に結婚しなければならないと教育されて育ち、本人も特にそこに異論がない、それだけのことだ。
「郁人さんもわかってくれたってことでいいのかしら」
座敷でふたりきりになり、料理をいくらか食べ進めたあと。
冷酒の盃を片手に小首を傾げ、彼女は笑った。
「恋だとか愛だとか言っても、そんな長続きするかどうかわからないもののために一生を捧げられないでしょう。お金で苦労するのも嫌だしね。それならよほど、会社同士のための結婚の方が有意義だし相手を選びやすいわ」
会社の利益になる関係なら、誰でもいいということだ。後は多少の好みだろうか。
それにしても、その思想を俺に聞かせて良いのだろうかと首を傾げる。
俺も彼女に対し何の好意も抱いていないことをわかっているから、隠すつもりもないのだろう。