イジワル御曹司と契約妻のかりそめ新婚生活
郁人が帰ってこなくなって、二か月が経つ。
動木さんは何かと心配してくれて、結構頻繁にあのバーに呼び出してくれる。
本当にたくさんお世話になった上、退職した私をすぐに雇うとも言ってくれた。

今のところ、これまで真面目に生きて来たおかげで貯金が結構ある。しばらくはゆっくりして、郁人が帰るのが遅くなったらその時はお願いすることにした。
しかし、失敗したかもしれない。
仕事が無ければのんびり出来るかと思ったが、暇を持て余すようになるのはあっという間だった。

最初は趣味の読書に没頭したりしていたが、家の本は全部読み返して、図書館にも通い詰めて。

そして、飽きた。
読書に飽きるのなんて、初めてのことだった。
私はどうやら、郁人がいなければ趣味の読書にすら没頭できなくなってしまったらしい。

おかげで今の私の楽しみは、動木さんからの連絡だけだ。
郁人が今どういう状況なのかとか、こまめに教えてくれるから。

そしてある日、いつものバーに呼ばれた。

「目処がついたよ。あいつよっぽど早く帰りたいんだろうねぇ」

何の目処かは、言われなくてもわかる。
眞島商事と常盤さんとの婚約が、一体どうなったのか。
それに伴う事業に影響が出ないように、郁人は出来たのか、ということだ。

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